毒の咲く丘

登場人物
ゼロ=シックス アルカナ:ルナ=グラディウス=レクス
ルナギルド、ナンバーズに所属する14歳の少年。鬼人ラギスを崇拝している。
なぜか、ガナルヴァーグ伯ルーカスに瓜二つ。

○主人/ラギス:今も昔も、永遠の「ラギス様」
◎遺言/ジェノ・シール:今となっては明かされることのない謎。いったい誰が… 

ラギス アルカナ:アダマス=アクア=フルキフェル
鬼人の騎士として、闇に堕ちた者を狩り続ける戦士。
ガナルヴァーグの街に立ち寄ったのは、ほんの偶然だった。

◎幼子/ゼロ=シックス:「ラギス様」と呼ばれることに困惑気味。

ジェノ・シール アルカナ:アダマス=フルキフェル=エルス
獣人であるが、かつてエステルランドの騎士に列せられていた事があった。
そのとき、現ガナルヴァーグ伯ルーカスは卑劣な手段を使うことを辞さない、ただの従騎士だった。しかも、ルーカスの陰謀により、彼の罪をかぶらされたのだ。

◎道連れ/デイヴィッド・ビッツ:一緒に旅をした事もあったらしい。

デイヴィッド・ビッツ アルカナ:フィニス=エフェクトス=ステラ
外見は24歳の青年だが、実年齢はその十倍。
ガナルヴァーグ伯お抱え庭師のアルフレードとは旧友で、これまでは折々に届いていた彼からの便りが、しばらく途切れている事を気にかけて、ガナルヴァーグの街にやってきた。
これが数奇な運命の始まりだとも知らずに。

◎同志/ラギス:シナリオ『剣の虜囚』時、ともに戦った事を示している。

ルーカス ガナルヴァーグ伯。元は身分の低い騎士だったが様々な手段を使い成り上がった。
その中にはもちろん、大きな声で言えないようなものも…
広大な薬草園を、”趣味で”営んでいる。
アルフレード 伯爵お抱えの庭師にして薬師。ルーカスの秘密を知る男。
最近、妻の姿を見かけないことに、不安を覚えている。

1066年 王都フェルゲンにて 王妃マルガレーテ・フォーゲルヴァイデの手記より

 ガナルヴァーグ。
 その名を耳にしても、最初、何のことやら思い当たりませんでした。続けて、ルーカスというありふれた名前が出たので、ようやくそれが、北方の地方都市の名だと思い出しました。同時に、ルーカスという者を、何年か前にその街の領主にすえてやったのだということも。
 あの、品なく不敵に笑う男は、自信にあふれて「自分はハウトリンゲン公の血縁だ」と自分を売り込んできたのです。その頃、あの男は一介の従騎士に過ぎず、また取り立てた戦果を上げたわけでもなく、どちらかといえば小利口なだけのつまらない男でした。まあ、この私に目通ったのですから、それなりに頭は切れたのでしょうけど。それくらいなら、世の中には掃いて捨てるほどいます。
 私がその男に興味を抱いたのは、彼が今更持ち出したのが“ハウトリンゲン”だったからです。公国がツェルコンに攻め滅ぼされて十年がたち、(忌々しい事に)ブレダの国力は強まり、安定して、覆しがたくなる一方。付け加えるなら、ツェルコンは苛烈な男。自らを脅かす可能性があれば、どんな相手であれ、徹底的に潰すでしょう(ある意味、理解できる思想ですが)。
 たとえ、真実、公家の血筋の者であっても、それを隠そうとするでしょう。それを自ら名乗るこの男。偽であれ、真であれ、何か利用価値はあるかもしれないと思ったのです。
 何しろ、ハウトリンゲン公ライフェナウ家は、指輪を継承する選帝侯の一翼。滅亡して十年を経たとて、様々な噂が市井にははびこっているとか。
 その噂のうち、何が真実であるか―何が利用可能であるかを洗い出すくらいの役には、立つことでしょう。

 今日、もたらされた報せは、そのルーカスが死んだというものでした。別に、残念とも思いませんでしたが、ため息くらいはついてあげました。
 あの男自身はともかく、彼が折々に送ってよこした美しく希少な花々は、それなりに役に立ってくれましたからね。
 何故、ルーカスが死んだのか。そして、その後ガナルヴァーグに起きた政変(と呼べるかは疑問ですが)のほうが、よっぽど重要な報せでした。
 ゼロ=シックス。十四歳といえばまだほんの子供。ヒルダとそう変わらない年です。
 このゼロという少年が、前領主亡きあとの市政を、あっさりと掌握したというのです。まもなく、彼からの使者も、王都に到着するとのことでした。
 そして、この少年は、ルーカスと、そっくりといっていいほど似た外見をしているというのです。
 遣わされて来る使者は、私のところへ来させるように、すでに手配させました。まもなくやってくることでしょう。
 まったく、楽しみだこと。
 今は亡き、不遜なるルーカス。あなたは果たして、“炙り出し”ぐらいの役には立ってくれたのかしらね?